付き合い始めたからといって、僕達の日常生活は特に変化しなかった。
しいて言えば、人気のないところで素早くキスをすることがあるくらいだった。
他人の介入のないところで素早く彼女にキスするのは、果実の一番美味しいところだけを
掠め取ったような気分になる。
いつでも、と言っていいほど彼女の唇からは甘い中にほろ苦さを感じる味がした。
その正体を知るのは、このときより丁度一年後のことである。




僕等は六年生になり、既に付き合い始めて一年が経とうとしていた。
いつまで経ってもなかなか進展しない僕達の恋模様を見て、ウィルはしょっちゅう溜め息をついていた。




「トム。お前、そのままでいいと思ってるのか」まるで父親のような口調で彼は言った。
僕がウィルの言葉に反応せず本を読み続けていると、彼は僕の手から本を奪い取った。
そしてパラパラとページをめくり、つまらなそうにベッドの上に投げ捨てた。
僕は少し椅子を回転させ、人のベッドの上に腰掛けて呆れた目でこちらを見ているウィルと
向かい合う形になった。
「こんな『信じがたい宇宙の大膨張』なんて本読んでる場合じゃないだろうが!」
ウィルはベッドに投げ捨てた本を再び手に取り、それを叩きながら言った。
「それのだから汚くするなよ。本汚すと怒るから」
「こんなモン借りてる暇があったら進展させろよ」
「ウィル、お前の頭の中にはそれしかないのか?」
僕の言葉に彼は少しムッとした表情を見せ、突如として杖を取り出した。
何やらぶつぶつと早口で呪文を唱えると、杖の先から白い煙のような物がもくもくと立ち上り、
その白い煙は一つの画面のようなものになった。
画面にはが映っていた。
何やら分厚い本に目を落としている。
「…何がしたいんだい、ウィル」僕が微笑みを浮かべながら尋ねると、彼もにやりとした笑いを浮かべた。




「今からと僕が入れ替わる」
ウィルはにやり笑いを一層強めて僕を見た。
「いまさら純情ぶってもダメだぞ、ヴォルデモート卿。
すでにもう七人とそういう関係になってるだろうが」
「七人じゃない、六人だ」
「一人くらい変わらんよ」ウィルは笑いながら息をふうっと吐いた。
前にも言ったように、ウィルは女関係が派手だった。
頭の悪い女でも、賢くても、とりあえず「来るもの拒まず去るもの追わず」をモットーに掲げている
くらいだったから、肉体関係を持った女は一年で二十人くらいにはのぼるだろう。
のべ人数にすると三倍くらいにはなるはずだ。
「トムがと付き合うようになってから、あの頭の悪い女連中がそっち方面でも
妬んでるの、知ってるだろ?あの女達が男を使ったりしたらどうなると思う?」
「そんな三文小説みたいな話があるか」僕が吐き捨てるように言うと、ウィルは僕の目の前で
人差し指を立てた。
「ノンノンノン」ウィルはおどけたように人差し指を左右に振りながら言ったものの、
表情は真剣だった。
「それがあるんだよ、あるから言ってンだ。一昨日寝た女が」
「いい加減に見境なく手を出すのはやめたらどうだ?」
「『どうしてあんなマグルの女が!』とヒステリックに叫んでたね。
んで、そのようなことをチラリと言っていたのさ」
ウィルは僕の言葉を無視して続けた。
と言いウィルといい、なぜ都合の悪い言葉を無視するという悪癖の持ち主が僕の周りには
集まるのだろうか。
「何で僕の親友にそんなことを漏らすんだ?バカか」
「だから言ってンだろう、バカなんだって」まぁ、僕が聞き出し上手ということもあるがね、
と彼は言った。
「とりあえず!今から僕はと入れ替わる」
そして彼女を守ってやれ!とウィルはガッツポーズをした。
僕は静止するように彼の方へ手を出した。
「ちょっと待て。そういう関係に僕とがなることと、浅はかな連中がを狙ってること
に何の関係があるんだ?」




遅かった。
僕が言い終わらないうちに、彼はにやり笑いを残して画面の中へ消えた。
代わりに今までウィルが座っていたところに分厚い本を持ったが眩い光と共に現れた。