飛び立ったところは雪景色だったけれど、降り立ったところは桃色の花を咲かせた木が
あちらこちらに咲いていた。
綺麗とも美しいとも思わない。
何を見ても何も感じない。
タクシーの窓から外を眺めてみる。
初めて来た国なのに、僕はもう何度もこの景色を見ている。
何もない世界。
空虚に包まれている、砂漠のような世界。
指定された場所に行くと、東洋人の男が僕を見て頭を下げた。
西洋人のそれとはまた少し違う。
どこかで見たことがあるな、漠然と思った。
男は流暢な英語でこれからのことを話し始めた。
僕は頷き、適当に相槌を打ちながら話を聞いた。
聞いただけで理解はしていない。
この国に降り立ったときから、どんどん頭にかかるもやが濃くなっていく気がする。
寂寥感と空虚感に襲われつづけている。
この十年間でこんなにも世界が虚無的に見えることはなかった。
男は適当に相槌を打っている僕が話を全て理解したと勘違いしたらしく、
満足げに頷くと二枚の紙を差し出した。
「三日後に行く場所」と「それまで過ごすホテルの場所」の地図だった。
「ご所望でしたら、街をご案内させて頂きますが」と彼は言ったが、丁重に断った。
観光という気分ではなかった。
見るものなどない。
のいない世界は世界でないのだから。
もうこの世に価値などないのだ。
ホテルまでの道々、道行く人が珍しそうに僕を見ていく。
やはり外国人が一人で歩くというのは珍しいことなのだろう。
一つの民族しか住んでいない国だからだろうか。
別に苦でもなかった。
以外のマグルなど、皆、野山に捨てられた骸骨にしか見えない。
桜並木のプロムナードを通っても、立派な和風の建造物を見ても、砂漠以外に見えない。
全てに色がついているはずなのに、黒と白の塊のようにしか見えない。
モノクロな砂漠の世界。
が消えた世界など、そんなものだ。
彼女は広い砂漠を世界の果てまで逃げていく。
僕はを追いかける。
足跡が風に消されていく。
いつの間にか僕自身も風化していく。