とは三年生のときに初めて出会った。
さして彼女に興味はなかった。
彼女が類稀なる転校生でも、マグルの両親を持つのにスリザリン寮に入れられようとも。
穢れた血の人間などどうでも良かった。
僕はその頃にはすっかり優等生が板についていた。
当時からマグル贔屓だったアルバス・ダンブルドアはのことをひどく心配していた。
僕と顔を合わせるたびに彼女の様子を尋ねてきた。
僕はいつでも「彼女は上手くやれていますよ」とにこにこしながら答えたものだ。
笑っているのは顔だけで、腹の中では彼を嘲りながら。
純血主義のスリザリン寮で、日本人の、しかも純粋なるマグルであるが
上手くやれているわけなどなかった。
毎日のように彼女は、頭の悪い同寮の女子生徒に苛められていた。
苛め方はさすがに「狡猾なスリザリン」と謳われるだけあり、悪賢く陰湿だった。
決して先生の前では苛めている素振りをみせない。
虐めの証拠や痕跡は決して残さず、たとえが先生に泣きついても、
逆にの立場が不利になるような細工が施してあった。
が勤勉で成績の良い生徒だったのも彼女達の癇に障った。
もっとも、そんな小細工をする脳ミソがあるならば、彼女を妬む前にそれを勉強に生かせば
良いのに、彼女らはを苛めることにしか使わなかった。
根本的に頭の悪い人間は、これだから嫌いだ。
他人を叩き潰すことを目標にし、自らの能力を上げようとはしない。
自らの能力が劣っていることにも気付かない。
どこにでもいる浅はかな人間の典型だ。
だが、そんな細工をする必要もやがてなくなった。
は決して先生に告げ口をしたりしなかった。
そして、決して泣かなかった。
教科書がなくなろうとも、折角仕上げたレポートが微塵に切り刻まれていても。
そうしたの態度は一層彼女達を刺激し、いじめは時が経つにつれて
消えるどころかより一層ひどくなっていった。
スリザリンの人間は誰一人としてを助けなかった。
いじめる人間は寮の女子生徒の半数以上いたし、それ以外は皆傍観者だった。
勿論僕も「我レ関セズ」の傍観者の一人だった。
彼女を助ける義理もない。
それに連中の愚劣ないじめ方を見ているのは、なかなか愉快なものだった。
どんな手段を使ったとしても、は泣きも笑いもしない。
孤独を湛えた感情の全く見えない瞳でじっと前を見つめていた。
連中にとってはまるで糠に釘を打っているようなものだった。
またそれが連中の神経を逆撫でし、火に油を注ぐ結果となっている。
僕の友人は無表情かつ無反応のを見て「一回泣いてやれば、あの女達も
気が済むんじゃないか」と苦笑いしていた。
授業中に指名されて発言する以外、僕はの声すらも聞いたことがなかった。