朝、目が覚めると泣いていた。久しぶりのことだ。
悲しいのかなんて、もう分からない。
感情は、とっくの昔に涙と共に流れ去った。
ベッドの中でしばらくぼんやりしていると、同居している仲間の一人が「時間だぞ」と起こしに来た。
窓の外は雪が降っていた。
ぼうっとした頭のまま、昨夜まとめた荷物を持って僕は仲間と共に家を後にした。
道にうっすらと雪が積もっている。チェーンを巻いて走る車が2,3台見えた。
仲間の背中を見ながら歩いていく。
歩くたびにビチャビチャと水の音がした。
黒塗りの車が一台止まっていた。
黒いスーツを着た男が右腕を胸に当てて「お待ちしていました」とお辞儀をした。
車の後部座席に、起こしに来た仲間と僕は乗り込んだ。
他の仲間はしばらくの間この街で待機することになっている。
目で互いに合図しあうと車は動き出した。
僕は窓の桟に頬杖をついて外の景色を眺めていた。
ただ景色が流れて行くだけで何の感動もない。
それどころか僕の目には何も映っていない。
この車もご丁寧にチェーンを巻いているらしく、鈴が遠くで鳴っているような音がする。
規則的な音が耳に心地良かった。
無事に空港に辿り着くだろうか、搭乗時間に間に合うだろうか、飛行機はちゃんと飛ぶのだろうか。
仲間達の過剰な心配をよそに車は搭乗時間の1時間も前に空港に着いた。
ここからは僕の一人旅となる。
一緒に空港に来た仲間は僕と正反対の方角へ飛ぶ。
「元気でやれよ、ヴォルデモート卿」
彼は握った拳を僕の前に突き出した。
頷いて僕もその握り拳に自分の拳を当てた。
飛行機が飛び立つと程なくして僕は眠りに落ちた。
そして、夢を見た。
生きていた頃のの夢だ。
彼女は夢の中で笑っている。
いつもの、僕だけに向けていたあの笑顔で。
「リドル」と僕のことを呼ぶ。
これが現実で現実が夢だったらいいのに、と思う。
だけど、そんなことはありえない。
だから僕は彼女の夢を見た後泣いている。
幸せな夢から辛い現実に戻るとき、そこには大きなクレバスがあり、どうしても飛び越えられない。
何度やってみてもダメなのだ。
その大きなクレバスを作ったのは、他ならぬ僕自身であるのにも関わらず。