ヒカルは笑っている。
太陽のような、僕には眩しすぎるくらいの光を放つ笑顔で笑っている。
そのヒカルの笑顔が突然歪む。
僕の世界に太陽の光は届かなくなる。
冷然たる眼差しを僕に向けている。
植物は枯れ果て、動物は死滅していく。
青かった空は見る影もなく真っ黒に塗りつぶされ、大地は鳴く。
僕の世界が壊れていく。
絶望の世界が広がっていく。
僕は半狂乱で彼女の首に手をかけた。
ヒカルは笑わない。
そんな夢にこの三日間、何度うなされたことだろうか。
食べ物ものどを通っていかなかった。
何が僕にヒカルを思い出させているのだろうか。
何が僕の夢にヒカルを出すのだろうか。
何が僕をヒカルに縛り付けて放さないのだろうか。
この国に来てから、目の前の景色はどんどん色をなくし、挙句の果てに霧がかって見えるようになってきた。
この国が悪い。
「日本」という、この国が。
ヒカルの出身国である、この国が。
一刻も早くこの国から出なければ、僕は間違いなく死ぬ。
この国の怨念に取り憑かれて。
本来、マグルの世界で魔法を使うのは御法度だ。
特に日本という国は「魔法使い」という概念がないらしいので、使ったら大問題だろう。
しかし、時間がなかった。
「伝説の魔法使い」と称される人間が住んでいる山奥まで電車で行けば、僕の精神が崩壊する。
僕は「姿あらわし」術を使った。
ヒカルと年齢を詐称して合格した術だ。
そう考えただけで、両目から涙が流れてきた。
着いた所は周りを木で囲まれた小さな小屋の前だった。
枯れ果てた黒い木が小屋を取り囲んでいた。
みすぼらしく、粗末な小屋はいかにも俗世間を離れた魔法使いが住んでいそうだった。
目を閉じると、黒い森に吸い込まれてしまいそうだった。