この世界のどこかに、小さく平和な国がありました。
その国には一人の少年がおりました。
少年には、ずっと行きたかったところがありました。
お花がいつでも咲きほこっているという、まるで天国のようなところです。
そこへたどり着けた人は、その後何でも願いが叶うと言われています。
少年は、その場所へ行こう、と決心しました。
そこへ行くためには、大きな森を通っていかなければなりません。
ですが、地図も何もないのでどこに何があるかわかりません。
どの道を通っていけば着くのかもわかりません。
少年は暗いのがいやだったので、とりあえず一番おひさまの当たっている
明るい道を行くことにしました。
しばらくその道を真っ直ぐに歩いていると、とても大きな蛇を見つけました。
その蛇は、なんとどくろを巻いて道をふさいでいるではありませんか。
蛇のちょっと手前には、少し暗い細い道がななめに伸びているのが見えました。
蛇は言いました。
「この先へ行きたかったら、俺を倒していけ」
少年はかまくびをもたげてこちらを睨みつける蛇にすっかり怖くなってしまいました。
自分より大きい、怖そうな蛇なんか倒せるわけがないと思い、蛇に比べればまだ怖くない
少し暗い細い道に行きました。
おひさまがたまにしか当たらない、うす暗い道でした。
またしばらく進むと、今度は大きなライオンがどっしりと座って道をふさいでいました。
ライオンの手前には、今いる道よりもずっと暗くてずっと細い不気味な道があるのが見えました。
「この先へ行きたければ、わしを倒していけ」
ライオンは吠えました。
森中にこだまするような、大きくておそろしいおたけびでした。
少年はその鳴き声を聞いた瞬間、ライオンの手前にあった真っ暗な道へと逃げ込みました。
「あんなおっかないライオンを倒せるわけがないじゃないか」
進んでも進んでも真っ暗な細い道と黒い気があるだけで、他には何もありません。
少年は泣きたくなりましたが、それでもまっすぐに道を進んでいきました。
ひとしきりすると、とつぜん少年の目の前はぱあっと明るくなりました。
そして、小さな川があらわれました。
川の向こうには少年が目指していた、お花の咲きほこる場所がありました。
色とりどりのきれいなお花が一面に咲いているのが見えます。
少年は川を渡ろうとあたりを見回しましたが、船もボートもありません。
仕方なく泳いで渡ろうと少年が川に足を踏み入れた瞬間、とつぜん川から大きな魚が現れました。
「この川は泳いで渡れないよ。なまみの人間が入ったら、ぼくが食べちゃうからさ」
その魚は人間を食べてしまうという、世にもおそろしい魚でした。
「どうしても僕は、向こうに行きたいんだ。食べないで渡らせてよ」
少年は必死に頼みましたが、魚は全く取り合ってくれません。
少年はその場になきくずれてしまいました。
ですが、魚はその様子を楽しそうに見つめています。
「この道に来たっていうことは、もうあの場所へは行けないんだよ」
魚はあきれたように笑って言うと、パシャンという水しぶきの音と共に消えました。
魚が消えると花の咲いているところも川もすべて消えました。
少年は気がつくと真っ暗な森の中にいました。
少年はなみだを流しながら、とぼとぼともと来た道を戻っていきました。
真っ暗な道に、出口はありませんでした。
あとがき
オリジナルのストーリーで絵本風味な話を書いてみました。
とつぜん英語の講習中に思いついた話です。
何気にダークな話だと、自分では思っています。
わざわざきちんと細部を描写するのを避けてみました。
どうしてこういう結果になったのか、というのはパソコンの皆様にお任せします。
読んでくださってどうもありがとうございました。
H16.3.22. Shion Halu